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日立メディコ創立30周年記念 第16回定期演奏会
2004年2月1日(日) 東京文化会館大ホール

指揮/神宮 章

リスト
交響詩「レ・プレリュード」

フォーレ
組曲「ペレアスとメリザンド」作品80

ベルリオーズ
幻想交響曲 作品14

演奏会ちらし


リスト:交響詩「レ・プレリュード」

フランツ・リストは、ハンガリー生まれのピアニストであり、作曲家である。父にピアノを習い、その後チェルニーにも師事し、12歳ですでにその音楽的才能を認められている。当時よりピアノの魔術師と呼ばれ、極めて高度な技術を要する練習曲などのピアノ曲を残したが、ピアノ以外の分野においては、管弦楽において交響詩という形式の創始者といわれている。
 リストは全部で13の交響詩を作曲しており、その中で最も成功した曲が、3番目の交響詩として1849年から1850年にかけて作曲された交響詩「レ・プレリュード」である。この曲は、元々男性合唱曲の前奏曲だったものを独立させて管弦楽曲として改めたものである。作曲に際してはベルリオーズの「幻想交響曲」から強い刺激を受けたといわれており、多楽章の標題交響曲である「幻想交響曲」に対し、単一楽章で標題の内容に応じた自由な形式となっている。
 この曲にはリストの署名つきで序文が付いており、
『われわれの一生は、死への一連の前奏曲(プレリュード)にほかならない。』といった内容が書かれている。そして曲中ではこの表題に則して、「プロローグ」−「春の気分と愛」−「人生の嵐」−「愛の安らぎ、平和な牧歌」−「戦いと勝利」−「エピローグ」という順で人生が物語られる。
 プロローグは低弦から始まり、木管に彩られ、そして金管・打楽器により力強い合奏となる。本題に入り、中低弦や木管・ホルンによる美しいメロディと、金管・打楽器によるファンファーレ、弦楽器による嵐などにより、多彩な表情を見せながら人生を表現していく。そして、プロローグを華やかに再現するエピローグで曲は終結する。この曲は管弦楽の新たな歴史の幕開けを示しているともいえるのではないだろうか。ベルリオーズにより挑戦的に作曲された表題音楽を発展させることにより交響詩という形式を生みだし、また「死」や「人生」というものをテーマに据えた。この流れは、多数の交響詩を作曲したリヒャルト・シュトラウスや、常に「死」を意識して交響曲を作曲したマーラーへと引き継がれていると言ってもいいだろう。
 この曲を聴くにあたっては、いろいろな聴き方があっていいと思う。表題音楽ではあるが、その表題が人生という幅広い想像を掻き立てるものであり、人生は人それぞれなのだから。「人は何のために生まれ、何のために生きるのか?」 の答えとして、リストの序文を思い浮かべるのもいい。戦場へ向かうファンファーレや、牧歌や美しい愛を歌う旋律に酔うのもいいと思う。
 お客様の想像力を掻き立てる演奏を目指す。

(Hr.M.S.)

フォーレ:組曲「ペレアスとメリザンド」作品80

フランスの作曲家たちのオーケストラ作品には、我がフルーティストにとって“おいしい”ソロが沢山登場し、まさに名曲の宝庫である。フルートとフランス音楽は相性が良いようだ。
 代表格は、ビゼーの「アルルの女」。有名な「メヌエット」を聴いてフルートを吹き始めた人は少なくないはずである(はい、ここにも一人)。また、「カルメン」にも美しいフルートソロがある。そして、ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」、ラヴェルの「ダフニスとクロエ」。また、「ボレロ」の冒頭のメロディーを魅力的な低音の響きで静かに奏でるのもフルートである。
 そして、本日演奏するフォーレ、その音楽が持つ独特のくすんだ音色感と物憂いメロディーは、まさにフルートの、特に低音域の音色が良く似合う。「マスクとベルガマスク」の「パヴァーヌ」は、低音域が魅力の名曲であるが、「ペレアスとメリザンド」の3曲目「シシリアンヌ」もフルート独奏曲としても有名である。
 25年ほど前、フルーティスト峰岸壮一氏が吹くこの曲が、さる洋酒のTV-CMで流れていた。この文を書くために調べていて、長年、インスタントコーヒーのCMだと思い込んでいたことが発覚した。肝心の商品のほうはまるで見ていなかったということである。それはさておき、当時フルートを始めたばかりの私にとって、そのCMで朗々と奏されるメロディは憧れの的であり、TVから流れるたびに聴き入った。この曲の低音域を魅力的に鳴らすのは初心者には非常に難しく、そして今でも大変に難しいのである。しかし何とか自分のものにしたい、そんなこころをかき立てられる音楽である。
 さて、フォーレが残した管弦楽曲はさほど多くはなく、舞台用の作品となるとさらに少ない。その中でも劇付随音楽「ペレアスとメリザンド」はフォーレの管弦楽曲の魅力を凝縮させた名曲である。この作品はもともと、1898年6月に、ノルウェーの城を舞台にしたメーテルリンクの戯曲がロンドンで上演された際に付随音楽として書かれ、後に組曲としてまとめられたものである。
 物語は、中世の架空の王国アルモンドを舞台とする悲劇である。国王の孫ゴローは、泉のほとりで謎の少女メリザンドと出会い、彼女を妻とする。しかしゴローの異父弟ペレアスがメリザンドに惹かれ、ゴローはペレアスを刺し殺す。メリザンドもゴローの子を産んだ後、病にたおれ息を引き取る。
 1895年にこの戯曲がロンドンで初演された際、それを観たイギリスの女優パトリック・キャンベルが台本を英訳し、1898年4月にフォーレに音楽を依頼した。フォーレは、弟子のシャルル・ケクランの助けを借り、わずか2ヶ月弱で音楽を完成させた。
 フォーレの組曲は劇付随音楽から「前奏曲」「紡ぎ歌」「メリザンドの死」の3曲が選ばれ、1901年に初演された。後にフルートの独奏曲としても有名な「シシリアンヌ」が追加されて現在の形になったが、この曲はもともと戯曲「町人貴族」のために書かれ未完となった付随音楽の中から、第二幕の前奏曲として転用したものである。
 組曲は、次の4曲からなる。

1「前奏曲」
 劇の開幕前に奏される序曲に当たるもので、弦楽器による謎めいた雰囲気のメリザンドの主題で始まる。終わり近くに響くホルンは、森の中で道に迷ったゴローの角笛を表し、メリザンドとの悲劇的な出会いを表す。
2「紡ぎ歌」
 第三幕でメリザンドが糸を紡ぐ場面。弦楽器が奏する3連音符が糸車の回る様子を表している。謎に満ち世間と隔絶された女性メリザンドを表すかのように、オーボエが旋律を紡いでいく。
3「シシリアンヌ」
 第二幕への前奏曲。ペレアスとメリザンドが泉のほとりで戯れる。ハープの伴奏に乗って、フルートが幸せな歌を奏で、中間部ではチェロのソロが寄り添う。
4「メリザンドの死」
 二重付点のリズムが悲しみに満たされた重い足取りを表すようである。弔いのトランペットが聴こえ、清らかに静かに曲を閉じる。

(Fl. 庄子 聡)

 

ベルリオーズ:交響曲第3番 ハ短調「オルガン付き」 作品78

痩せぎすで鷲鼻の老人は、漆黒の墓石にそえられた朝露を垂らす小さな赤い花を見つめ溜息をつく。
「エクトール先生、そろそろお時間です。」
 この神経質そうな黒服の男はシュネイダといっただろうか。老人は、墓石の正面にある木で体を支え「父と同様医者になっていればどうだったろう。」とぶつぶつ口篭もりながら油の足りなくなった体を動かしモンマルトルを発とうとした。

「おお、ジュリエット。私はここにいる!」
 オデオン座の舞台に横たわるジュリエットを抱きしめるロミオのセリフが大声で響く。観衆たちは驚き、客席から舞台に手をかざすボサボサ頭の若い男を遠巻きにした。黒服の男にホールから引きづられて行きながらも甲高い声を振り絞って叫ぶ。
「ハリエット私だ。エクトールだ、分かるだろう。そのエメラルドの輝きを放つ瞳。やさしく心を包む歌声・・・君!その手を放したまえ。私はロミオだ!」
 数百にもわたるエクトールの心を書き綴った手紙も、彼女のために開いたパリ音楽院での演奏会も、常軌を逸した男に付きまとわれないよう、そそくさと祖国イギリスにかえる人気女優ハリエット・スミッソンの心を捉えようはずもなかった。
「これ以上貴女のいない世では、耐えることは出来ない。」
 そのころ止めることのできなくなっていた香ばしく危険な煙をエクトールは深々と吸った。壊れていく魂とは裏腹に、次第に心の痛みが薄れていく錯覚にとらわれる。
 瞬間、頭の後ろから前に向かって緑色の強い光が走りぬける。

ふと気が付くと見渡すかぎり緑色の海原の波に体を呑まれようとしている。墨絵のような空に手をかざすと斜光が指の間からもれてくる。
 嵐の中、波の彼方に白くぼんやりと光の球体が中空に浮かぶ。囁きかけてくるフルートの音。それが追い求めていた大切で果敢ない物である確信を得た。
「ハリエット!」
 エクトールの声を避けるように球体が遠ざかる。
「ま、まってくれ!ハリエット。」
 これほどまでに心をかき乱されることはあるのだろうか。
 渦巻く波に呑み込まれ深い海の底に向かって吸い込まれていく。息苦しさよりも、球体から引き離される胸の苦しみがエクトールの息遣いを荒くする。
 今度はフルートの音色に寄り添うバイオリンの音色が、あれほどまで昂ぶっていた波を何事もなかったようになだめた。球体の中の憂いのある表情のハリエット。手を伸ばすが触れることができない。
 次の瞬間、濃いオレンジ色の光が頭の後ろから前に向かって走りぬける。

真っ暗な空に浮かぶオレンジ色の月が、吹雪くピレネーのアネト峰に建てられた瀟酒な館を浮かびあがらせる。コントラバスとハープのうねりが館を揺らしている。
「あなた様はまだ招待されていないと存じますが。」
 髭をなでつけながら黒服の男シュネイダはどこともなく現れた。まったく場違いなワルツが山脈中に鳴り響き、舞踏会がはじまったことを告げた。テンポに呼応して館が揺れながら回転しはじめた。
「どうしても、この中に入る必要がある。」
 シュネイダの制止をよそに入り口に向かう。
 旋律にあわせて踊る貴族たちは、館が回転するたびに床がカベになり窓だった床に吸い付くようにターンをする。
 そして、円の中心にいたのは無表情の仮面をつける紳士と踊るハリエット。ターンをするたびに表情が陰陽と移り変わる。
 「なぜこうも美しいのだ。」
終盤に向かいハリエットの踊りが激しさを増してくる。ついに館が鈍く軋む音を残して谷底に向かってすべり落ちていく。
 青い光が頭の後ろから前に向かって走っていく。

重さを感じる暗闇に不思議に広がる青い光の草原で、角笛を吹く二人の羊飼い。
「愛するハリエットはなぜ近くに来て語ってくれないのだ?」
「おまえが手にかけるしかないだろう。な、エクトール。」
「たった一度でもいい、微笑んで、いや、この手で抱きしめたい。」
 二本の角笛は、草原の風と地鳴りを奏でる弦楽器たちの中を呼応し合う。
 邪悪な雷が、入ってはいけない暗黒へとエクトールをひっぱり込もうとする。
「ほら、手を前にだせ。はやく!」
「いや。だめだ。」
 瞬光に浮かんだ、眠っている姿のハリエット。手を伸ばし頬に触れる。ゆっくりと手を柔らかな顔に沿わせて下ろしていく。首筋で手がとまる。
 邪悪の雷がすぐ近くに落ちる。青光に映ったハリエットの血走った目は大きく開かれ、口はゆっくりあけられ、その口からもれる息が低弦とともにディミニュエンドした。
 鈍く赤い光が頭の後ろから前に向かって走っていく。

体中に石錘を縛り付けられ、一歩踏み出すたびに足が地中へとめり込む。鈍く刑場を震わせる鉢太鼓と民衆がはやしたてる鼓動がエクトールの背を押す。
「あなた様は、愛しながらも自分の手にかけ・・・」
 ファゴットのように忙しなく罪状を読み上げる黒服の男シュネイダに虚ろな目を向けるエクトール。
 やがて、十三の階段を上りつめる。一瞬、ハリエットのやさしい声が聞こえた。
「ああ、この声をどれだけ待っていたことか。」
 だが最後の吐息は斬り落とされた首まで届かなかった。処刑が確かに執行されたと勝ち誇ったファンファーレの中、シュネイダはエクトールの小脇に、ころがっていた首を抱えさせた。
 黒と黄色の光が頭の四方八方から飛び交う。

黄色い岩肌の荒原のはるか彼方にそびえ立つ教会の鐘塔。魔女たちで丸く囲まれた祭壇に黒い炎が高く上がる。炎の中心にいるのは亡骸となったハリエットだ。
「再生するのですよ。」
 黒服の男シュネイダに手を引かれ祭壇へと連れて行かれる。
 邪悪な黒魔術の呪文と教会の鐘の音が錯綜する。オフィクレイドの重低音がグレゴリオを奏でるとき、ハリエットは再生し妖しく光を放ちながら踊りはじめる。
 エクトールは、変わり果てたハリエットに抱く恐怖と情愛の念に激しく揺さぶられのたうちまわった。
 そして、大地全体を震わせる最後のファンファーレ。余韻がさまよった。

「エクトール先生。急ぎませんとね。」
老人は、滴ECTOR BERLIOZ と刻印された墓石の傍らの夕日を受ける小さな赤い花を名残惜しそうに見つめながら、今朝、彼の棺を乗せ参列者を蹴散らしながら入場した馬車へと乗り込んだ。
「結局、私が愛していたのはなんだったのだろう。」
「先生はご自身と音楽しか愛せなかったのでしょう。せっかく一緒になれたハリエット様ともうまくいかなかったし、ご子息も亡くされましたし。」
 黒服の男シュネイダはしたり顔で急かす。
「では行きますよ。」
 馬車が向かった音楽ホールでは、エクトールの魂を分かってくれる演奏をするはずだ。
 馬車は、"Ueno"とかかれたゲートを駆け通りぬけた。

(あとがき)
今回この曲を演奏するにあたって神宮氏がもっとも注力されたのは、「ベートーベンの時代に、このような近代的な曲を作り上げたベルリオーズの才気と狂気を、できるだけ当時の観衆と同じ気持ちで聴ける演奏をすること。」である。したがって、この解説は、妖艶に奏でられる弦楽器の響きや力強く透き通る管楽器の音の奥底には、最終楽章で鳴らされる教会の鐘のように、決して救われない邪悪な滲みを感じ、なにかキモイと思って頂ければ成功したと言えるだろう。
 そして、この解説に首をかしげるお嬢様をお連れの方は、「世の中の男ってこんなものなのよ。」と教示されればなお良しとさせて頂く。

(Perc.秀人・シュネイダ)


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