演奏会の履歴

日立フィルで過去に取り上げた作品を演奏会別にご紹介しています。

第42回定期演奏会(曲名をタップ/クリックすると解説文が表示されます)

2017年1月28日(土) すみだトリフォニーホール 指揮/田部井 剛

ディーリアス:楽園への道 ー 歌劇《村のロメオとジュリエット》間奏曲

 「おお、ロミオ、ロミオ!どうしてなあなたはロミオなの?お父様とは無関係、自分の名は自分の名ではないとおっしゃってください」
 言わずと知れた、有名なジュリエットの独白です。宿敵どうしの名家に生まれた若者が愛し合った結果、無残な死を遂げる…。愛と死と運命とを題材にしたこの悲劇は、ギリシャ神話やローマ神話にも起源をもつ普遍的なテーマでもあります。 親どうしの諍いや親の反対など、越えるべきハードルがあることで、悲劇性や切なさを帯びた深い、激しい恋愛となること(さらには転じて目標達成において何らかの障壁があることでチームの団結力が強まることこれらを称して “ロメオとジュリエット効果” とも呼ぶそうです)、これは現在でも多くの人の体験に共感と感動を生むテーマでもあり、この物語に基づいて数多くの映画やTVドラマが作られています。中でも1968年にオリビア・ハッセーが主演した同名の映画は、俳優を始めとする映像の美しさとニーノ・ロータの甘美な音楽により多くの人の心を虜にしました。音楽界においても、ベルリオーズ、グノー、チャイコフスキー、プロコフィエフ、ディーリアス、レナード・バーンスタインを始め、何人もの作曲家がこの戯曲に基づくバレエや歌劇や幻想曲、交響曲を書いています。
 イギリスの作曲家フレデリック・ディーリアスが作曲した歌劇《村のロメオとジュリエット》より、間奏曲《楽園への道》は、歌劇の中では第5場と第6場の間に演奏されます。
 1900年、ディーリアスが38歳の時に作曲したこの歌劇は、直接シェイクスピアの戯曲に題材を取るのではなく、スイスの作家ゴットフリート・ケラーの小説《村のロメオとユリア》を原作とし、ディーリアス自身がドイツ語で台本を作成し、妻のイェルカ・ローゼンが英訳しています。ケラーの原作小説は、物語を次のように語り始めます。
 この事件を物語ることが、必ずしも無益な模倣でなかろう(中略)、文学上の古い大作の素材となった美しい説話は、皆それぞれに、どんなに深くこの人生に根ざしているかということの実証ともなるからである。
 この曲でオペラの舞台は19世紀半ば、スイスのとある小さな村。二人の働き者の農民マンツとマルチは、互いの農地に挟まれた空き地の領有権を巡っていつしかいがみあうようになっていきます。一方、マンツの息子サリーとマルチの娘ヴレーンヘンは幼馴染どうし、やがて親たちの争いとは関係なく深く愛し合います。しかし、親たちは数年間におよぶ領有権訴訟によって財産を使い果たし生活はすっかり荒んでしまいました。若い二人は、一夜限りの夢のような逢瀬の後、市場に出かけ、幸せな一日を過ごしますが、やがて村人の視線がいたたまれなくなり、放浪者たちが集う“楽園”と呼ばれる庭園内の料理屋を目指します。放浪者たちに歓迎されつつも、しかしそこも自分たちの居場所ではない、どこにも行くところがないと観念した二人は、干し草を積んだ小舟に乗り、船底の栓を抜いて静かに河に漕ぎ出します。二人を乗せた切なく儚い干し草のベッドは、ゆっくりと河に沈んでゆきます…
 曲名の“楽園”は文字通りの楽園のことではなく、はやらない料理屋の名前です。行き場を失った二人が市場を抜け出て“楽園”に向かう場面で演奏される美しい間奏曲が《楽園への道》です。オーボエの静かなソロに始まり、木管楽器や弦楽器が愛のメロディを歌い継いで行きます。中盤で盛り上がりを見せるものの、どこまでも静かな諦観に支配され、静かで清らかな美しさに溢れ、聞く者の心を打つ一幅の絵画のような音楽です。

注:Romeoの日本語表記について、最近では英語風に「ロミオ」と表記されることが多いようですが、音楽の曲名表記においてはラテン語風に「ロメオ」と表記するのが通例となっています。本解説では台詞の引用を除き「ロメオ」としました。
引用:『ロミオとジューリエット』シェイクスピア作 平井正穂訳 1988年 岩波文庫/『村のロメオとユリア』ケラー作 草間平作訳 1934年 (1972年改訳) 岩波文庫
(Flute 庄子 聡)

バーンスタイン:《ウエスト・サイド・ストーリー》よりシンフォニックダンス

 この曲は1960年にバーンスタインが、自ら作曲したブロードウェイ・ミュージカル《ウエスト・サイド・ストーリー》の音楽を演奏会用の組曲に作り直したもので、その翌年にニューヨーク・カーネギーホールにおいてニューヨーク・フィルハーモニーによって初演されました。同年にはミュージカルが映画化されてアカデミー賞作品賞他を受賞、日本でも大ヒットとなりました。サウンドトラック・アルバムもヒットし、現在までに数々の舞台公演もあり、皆さんもどこかでダンスシーンを観たり、曲を聴いたりしたことがあるはずです。
 話の舞台はニューヨークのウエストサイド。不良少年グループ、ポーランド系のジェット団とプエルトリコ系のシャーク団とが対立し一触即発の状況の中、ジェット団のトニーとシャーク団リーダーの妹のマリアが恋に落ちます。そしてそこから悲劇が。ストーリーはシェイクスピアの《ロメオとジュリエット》がベースです。全9曲は切れ目なく演奏され、ラテンやジャズの要素がふんだんに取り入れられ、クラシック演奏会ではあまり聴くことの出来ない音が随所に現れます。
1.プロローグ Prologue
ウエストサイドの街中で両団が小競り合いするシーンから始まります。短いテーマの後、フィンガー・スナップやアルトサックスのスインギーなソロが続きます。緊迫が高まり様々な打楽器も加わりついに喧嘩が始まった瞬間、駆けつけた警官の笛でその場は何とか納まります。ミュート(弱音器)を付けながらも強く吹く金管の音やシロフォン(木琴)などによるドライなサウンドが響きます。
2.サムウェア Somewhere
ゆったりとした美しいテーマをビオラ、ホルン、トランペットなどがソロで奏でます。映画では後半に使われ、「いつかどこかで新しく生きる道を」と二人が歌います。
3.スケルツォ Scherzo
対立するメンバーが仲良く踊る夢を見る場面。テンポが上がり、木管と弦楽器が2拍子、3拍子などで、揺らぐようなメロディーを奏でます。再びフィンガー・スナップが登場。
4.マンボ Mambo
両団のダンスバトルの場面。金管、ラテンパーカッションなどが大活躍する明るくパワフルな曲です。途中で全員による「マンボ!」の掛け声があります。金管にはジャズの奏法であるシェイク(倍音を短く上下にシェイクする様に吹く)やフラッター(吹きながら巻き舌をして音を激しく振るわせる)なども出てきて、後半はトランペットがハイトーンではじけます。
5.チャチャ Cha-Cha
ダンスバトルが終わって二人が出会い恋に落ちるシーンです。弦楽器のピチカートとフルートによる軽やかな曲で二人はステップを踏みます。
6.出会いの場面~クール~フーガMeeting Seen~Cool~Fugue
そして二人は初めて言葉を交わします。4本のバイオリンが語り合うように静かにBGMを奏でます。クール~フーガは、決闘の後に、警察に見つからないよう踊りながらもクールに振舞う場面での音楽。テンポが上がりスイングのリズムが始まり、いかにもクールな雰囲気が漂います。気持ちの昂ぶりとともに曲調も次第に激しくなり、ドラムスの激しいソロを挟み、金管がダイナミックにスイングしますが、次第に落ち着きを取り戻します。
7.ランブル Ramble
決闘の場面。高架下で両団の喧嘩が始まったところに、止めようとやって来たトニーが誤ってマリアの兄を刺殺してしまいます。バスドラムの音とともにホルンが吠え、激しい不協和音やうごめく様な音が続き闘いが描かれます。物悲しいフルートのソロがマリアの兄の死を示します。
8.フィナーレ Finale
リーダーを殺されトニーを探していたシャーク団はついにトニーを見つけます。そこにマリアも現れ、二人が駆け寄ろうとした瞬間、トニーは撃たれて亡くなります。そして全員がトニーを葬送する場面になります。静かに弦楽器と木管が悲しみを奏でる中、2曲目の《サムウェア》も聴こえ、ピアニシシモで消え入る様に終わります。《ロメオとジュリエット》の様に後を追うのではなく、マリアは悲しみにくれながらも、拳銃を取り上げ「みんなが彼を殺したんだ、銃ではなく憎しみで」と話し、強い心で葬送します。アメリカです。

 バーンスタインは作曲家、指揮者、ピアニストとして活躍し、明るく、気さく、情熱的で、アメリカを象徴するスターでした。ニューヨーク・フィルハーモニーの音楽監督を経て世界のオーケストラを指揮し、多くのレコード録音を残しました。日本では小澤征爾、佐渡裕などを育てたことでも有名ですが、若手音楽家育成の為に、1990年に札幌でパシフィック・ミュージック・フェスティバルという教育音楽祭を開催しました。残念ながらその年に72歳で急逝しましたが、現在でもその意志は引き継がれ、毎年夏に音楽祭は開催され、世界各国のプロを目指す若手音楽家が参加しています。
 ミュージカルと映画には、この組曲には入っていない《トゥナイト》《アメリカ》《マリア》など、この時代のアメリカを代表する数多くの名曲が含まれています。映画のオープニングはマンハッタンの空撮から始まりますが、55年前のその姿は今と違わない程に既にビル群で埋め尽くされています。移民や銃など様々な社会問題を抱えながらも、自由を掲げ前進していたアメリカ。その中で生まれたこの曲を、新しい大統領が生まれ、歴史の転換点となるかもしれないこのタイミングにお聴きください。
(Trombone 中村 智)

エルガー:交響曲第1番 変イ長調 作品55

  エドワード・エルガー(Edward Elgar)は、ロンドンの北西180kmにあるウスター近郊で生まれた。同時代の作曲家としては、ドイツにリヒャルト・シュトラウス(1864年-1949年)、フランスでは、クロード・ドビュッシー(1862年-1918年)がいる。ちなみに、本日の演奏会のもう一人のイギリスの作曲家ディーリアス(1862年-1934年)も同世代である。ただ、エルガーとディーリアスの交流は、彼らの死の前年になって始まったようである。
 エルガーの父はピアノ調律師として働きながら楽器商として楽譜や楽器を販売する店を営んでおり、プロ並みの腕前を持つヴァイオリニストでもあった。そのような環境のため、エルガー家の子どもたちは皆、音楽を教え込まれており、エルガー自身もピアノとヴァイオリンのレッスンを受け、音楽の道に進みたいと考えていた。15歳で学校を卒業すると、一旦は弁護士事務所で事務員として働き始めたが、すぐに辞めて、父の店で働きながら、ヴァイオリン演奏や作曲など、地元で音楽活動を行う。結局、エルガーは音楽学校での専門的な教育を受けることはなかったが、独学で作曲を勉強し、音楽活動の中で作品を発表していたようである。
 32歳の時にヴァイオリンの弟子であった女性と結婚するが、その妻は音楽家としてのエルガーのよき理解者でもあり、プロデューサーでもあった。婚約の贈り物として作曲したのが、ヴァイオリンとピアノのための小品《愛の挨拶Salut d'Amour》であるのは有名な話。その妻の勧めもあり、エルガーはロンドンに移り、作曲に専念するようになる。ロンドンの生活自体は、多くの音楽に触れることができ、充実はしていたようだが、作曲家としてはそれほどの成功を収めることはできず、1891年、34歳で故郷に戻ることになり、地元の楽団の指揮や音楽教師として生活することになる。ただ、作曲活動はそれでも継続しており、音楽出版社との長期契約を結ぶなど、作曲家としての名声を次第に確立していった。そうした中で、1899年、42歳で作曲した《エニグマ変奏曲》が、有名な指揮者、ハンス・リヒターによって初演され、成功を収めた。これをきっかけとしてエルガーの作品はヨーロッパ大陸でも演奏されるようになり、ようやくエルガーはイギリスの代表的な作曲家としての地位を確立した。
 その後、エルガーは、《威風堂々》第1番(1901年)、交響曲第1番(1908年)、ヴァイオリン協奏曲(1910年)、交響曲第2番(1911年)、チェロ協奏曲(1919年)といった名作を生み出していき、1904年にはその功績からSirの称号が授けられる。
 交響曲第1番は1907年から1908年にかけて作曲され、初演はエルガーが50歳になる1908年、ハンス・リヒターの指揮により、イギリスのマンチェスターで行われた。この初演は大きな成功を収め、その後、イギリスのみならず、ヨーロッパ、アメリカなどでもすぐに再演された。
第1楽章 Andante. Nobilmente e semplice - Allegro
 厳かな歩みを低音楽器が受け持つ中、ヴィオラと木管楽器で高貴で素朴な( Nobilmente e semplice )旋律が提示される。エルガーは、イギリスの民謡を直接的にモチーフに使うことはほとんど無いが、この旋律には、彼が、故郷のウスターとロンドンを移動する間に見たであろう丘陵地帯の広々とした風景を想像させる。このモチーフは、その後、全楽章に形を変えて現れる。加わる楽器が増えて発展した後、アレグロの主題に入る。主題は、活発な2分の2拍子と、4分の6拍子の悲しげな旋律が頻繁に入れ替わる複雑さが特徴である。エルガーが過ごしたイングランドの気候の変わりやすさ、一日の間に曇りから雨が降り、あっという間に気持ちのいい青空になるような転換。最後は冒頭の旋律に戻り、静かに終わる。
第2楽章 Allegro molto
 2分の1拍子。冒頭はヴァイオリンの16分音符の連続が空気の冷たさを感じさせる。それが温度を上げていくと、弦楽器と金管による行進曲が登場する。中間部は木管や独奏ヴァイオリンを中心に、春の森の煌めきのような部分となる。冒頭に戻った後、次第に落ち着き消えていくなかで、そのまま第3楽章へと移る。
第3楽章 Adagio - Molto espressivo e sostenuto
 緩徐楽章。8分の4拍子。暖炉の前で過ごす冬の夜を想像させる楽章。高揚する部分はあるが、常に節度を保ち、元の場所に戻ってくる。
第4楽章 Lento - Allegro - Grandioso
 序奏は、Lento4分の4拍子で、低音楽器による不安定な和声に、第1楽章冒頭のモチーフからの旋律が絡む。Allegro2分の2拍子は、ヴァイオリンの速い上行パッセージで始まる。付点リズムの連続による第1主題、行進曲風の第2主題で構成される。Grandioso 4分の6拍子では、第1楽章冒頭の旋律が神々しく回帰、最後は重力から解き放されたかのように速度を上げ、全曲を終わる。
(Violoncello 河元 哲史)

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