演奏会の履歴

日立フィルで過去に取り上げた作品を演奏会別にご紹介しています。

13回定期演奏会(曲名をタップ/クリックすると解説文が表示されます)

2002年7月13日(日) 東京文化会館 指揮/田部井 剛

フンパーディンク歌劇「ヘンゼルとグレーテル」より前奏曲

むかしむかし、森で迷ったヘンゼルとグレーテルが、お菓子の家で魔女に捕まりますが、機転の利く2人は、逆に魔女を退治してお菓子にしてしまいました。このグリム童話を題材としたオペラ「ヘンゼルとグレーテル」は、メルヘン・オペラの先駆的作品です。
このオペラは、R.シュトラウス指揮による初演で好評を博し、最初の1年間でドイツだけでも469回上演されました。大ヒットの背景には、当時の人々が、ワグナーの重厚な楽劇に疲れ、軽妙な音楽を求めていたことが考えられます。
前奏曲は、クリスマスに好んで上演されるオペラに相応しく、神と天使のモチーフで始まります。続いてトランペットが奏でるのは、魔法を解く「Hokuspokus...」という呪文です。この後、オペラ中の様々なモチーフを使いながら、徐々に曲は盛り上がり、魔女によってお菓子にされていた子供達が助けられた歓喜の音楽となります。最後は、再び最初のモチーフで静かに曲を終えます。

(Vla 本島 葉子)

シューマン交響曲第2番 ハ長調 作品61

「流浪の民」や「トロイメライ」に比べ、およそポピュラーとは言い難いシューマンの4つの交響曲ですが、中でも第2番は最も人気のない作品です。(ファンの方、お許しください)
シラーやゲーテに熱中する文学青年だったシューマンは、音楽に専念してからも文学的な要素を音楽の中に顕著に残しています。まさに前期ロマン派を代表する作曲家であったのですが、詩的な夢想がやがて精神障害となり作曲家の晩年を苦しめます。後世マーラーがシューマンの4つの交響曲を「リメイク」していますが、それはマーラー独特の狂気の世界をシューマンの音楽から吸収するために必要な作業だったのかもしれません。
交響曲第2番が作曲された1845年の前年、初めて顕在化した精神疾患は、この曲の中にも顔を覗かせています。第1楽章冒頭に出てくるトランペットのファンファーレがこの曲全体を支配しますが、開放的な筈のファンファーレは弦楽器の陰鬱な伴奏の中に埋もれて隠れています。
その後次第に明るくうきうきとする第1楽章、諧謔的なメフィストの舞曲と少年の夢が交錯する第2楽章、シューマン自身の沈んだ気持ちを美しく歌った、聞き手が塞ぎ込んでしまうような第3楽章、そして一転大はしゃぎする第4楽章。こうした性格を全く異にする4つの曲を繋ぎ合わせてしまう辺りがシューマンの素晴らしいところでしょう。一見矛盾するものが混在するのに対して慣れっこの現代人の視点で聴いてみて下さい。

(Vc 中村 晋吾)

ムソルグスキー (ラヴェル編曲)組曲「展覧会の絵」

ムソルグスキーの親友で、建築家兼画家のハルトマン(ロシア名はガルトマン)が39歳の若さでこの世を去り、その遺作展の印象をもとに作曲されたのが「展覧会の絵」です。ムソルグスキーは親友の遺した絵の印象をもとに(一部は実在しなかったとも言われている)10編からなるピアノ組曲を作り、間には絵から絵に移る彼の心情を4曲の「プロムナード」で表現しました。その7年後に自身も没し、この作品は忘れられてしまうのですが、約40年後、指揮者クーセヴィツキーの依頼によりラヴェルがアレンジしました。

<グノーム>グノームとはヨーロッパの民話の中に出てくる地中の財産を守るこびとの妖精。グロテスクな地の精たちが怒ったり、飛び上がったりしている有様が描かれています。

<古城>イタリア中世風の古城の前でスコモローヒ(ロシアの吟遊詩人)が歌っています。当時、モスクワ大公が文化の中心のノヴゴロドを制圧し、同地の音楽文化を支えたスコモローヒ多数をモスクワに連行しました。ハルトマンはこの史実を暗示しているのでしょうか。甘く美しい旋律が、アルトサックスとファゴットで演奏されます。

<チュルイリー>パリのチュルイリー公園で子供達が飛んだり、跳ねたり、その傍らで母親達が早いフランス語でおしゃべりをしている光景です。木管が軽快に主題を奏でます。

<ビードロ>ビードロとは、農夫が使う牛に引かせる荷車のことです。重く、大きな車輪がぬかるみの道を行くそのきしみと、牛の歩みを表す低音のリズム、そして馭者の歌う民謡調のメロディーが重なります。チューバ独奏が、重苦しい主題を提示します。

<卵の殻をつけたひなどりの踊り>舞踊劇の舞台衣装を画いた、殻の中からひよこが羽や足を出してピヨピヨ言っている光景を、木管によるきわめて早いスケルツォで表現しています。

<サミュエルゴールデンベルグとシュムレ>金持ちで尊大なユダヤ人(ゴールデンベルク)と、口達者で貧乏なユダヤの老人(シュムレ)との会話。低弦と木管でゴールデンベルクの威容を、弱音つきトランペットでシュムレのせわしない様を描いています。シュムレがしきりに懇願しさらに哀れな低姿勢をとるのを、ゴールデンベルクが居丈高に一喝して曲を終えます。

<リモージュ>騒然としたリモージュ市場の中で、二人の農婦が盛んにおしゃべりをしている光景が描かれています。

<カタコーム>今までのにぎやかな市場の光景から一変し、死を表す暗い響きとともに、パリの地下墓場(カタコーム)の中へひきこまれます。ハルトマンは灯火を頼りに、このカタコームを調査する自画像(後ろ姿)を描きました。

<死者たちとともに死者の言葉で>カタコームと同じ絵による音楽で、絵の端には累々と積まれた頭蓋骨が描かれています。ムソルグスキーはハルトマンと共に、死の世界にじっとたたずんでいるような感じを表現しています。ここでのプロムナード主題は遠くで、かすかに響いています。

<バーバヤーガーの小屋>バーバヤーガーとは、ロシア童話に出てくる魔女のことです。グロテスクな衣装を身にまとい、呪文を唱えながら人間の骨を撒き散らして空を飛ぶ姿を、早いテンポの野蛮なアクセントを伴って表現しています。

<キエフの大きな門>キエフ市の入り口に建っている巨大な門が描かれています。幾数十年の間にこの門をくぐった兵士の勝利の姿が見え、また古代の宗教コラールにより戦死者の霊を弔い、その後、鐘の音と聖歌が高らかに歌われます。

ムソルグスキーは、ハルトマンと古代ロシアに対して限りない賛美を与え、そして象徴的な「門」を境に、向こう岸にハルトマンを送りつつ、永遠の別れを告げます。

(Fl 今橋 直子)

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